人工知能伝習所

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台風や集中豪雨による洪水を予測する技術

太平洋を迷走し、史上初のルートで東北地方に上陸した台風10号は、岩手県と北海道に大きな爪痕を残しました。岩手県では、一時、1万5780世帯、3万6582人に避難勧告が出され、9月1日時点で約1万1800戸が停電し、1600人が孤立。特に、岩泉町では小本川が氾濫し、近くのグループホームが浸水して9人が死亡。今日で発生から2週間たちましたが、岩手県で確認された死亡者は20人、被害額の概算は822億3425万円。北海道でも被害額は610億円。いずれも、調査が進めば今後も拡大する見通しです。

また、台風10号により、北朝鮮でも深刻な洪水被害が出います。CNNの報道によると、133人が死亡、395人が行方不明となり、14万人が緊急支援を必要としているとのこと。

Blustery Day - High Tide (28)

台風に限らず、近年、集中豪雨による水害は頻発しています。短時間で河川が増水したり、堤防が決壊して甚大な被害が発生する事例も増えてきています。日本は国土の10%に過ぎない洪水氾濫区域に、50%の人口、75%の資産が集中しているため、豪雨の際の河川の監視や洪水予測は非常に重要な課題です。

そこで、今回は、洪水予測に関連する技術をまとめてみました。

海外の動向

欧州中期気象予報センター 2025年戦略
 2025年までの気象予報の技術目標を発表。台風、洪水、熱波など大きなインパクトを与える天候について、平均10日間、最高2週間まで先立って予報し、国家による気象および緊急サービスを可能にする。

米海洋大気局(NOAA)洪水予報スーパーコンピュータ
 米地質調査所が対象とする8000カ所以上からデータを収集し、米本土48州の270万地点でシミュレーションを実施。1時間ごとに河川・水路に関する予測を行う。

Microsoft Cortana Intelligence Suiteによる水位予測
 テキサス大学と共同で、機械学習を使った河川水文学ベースの洪水予測システムを実証実験。過去のデータを使うことで、河川の流量計が壊れていても、現在と将来の水位を推測可能。

IBM Deep Thunder
 1km四方単位での気象予想はもちろんのこと、各地点に置いて48時間先までの予測を実現。洪水多発地帯であるリオデジャネイロで実証実験。洪水予報をベースに災害範囲や規模などをシミュレーション。48時間先までの交通渋滞や影響を受けるであろうビジネスを予測し、都市部で起こりうる問題を事前に回避。


国内の動向

国土技術政策総合研究所 アンサンブル予測雨量に基づく水位予測
気象予報では、予測の初期値が少し変化するだけで、予測結果が大きく変化してしまう不確実性が存在。そのため、複数の初期値で計算された多数の予測結果の平均や分散を利用して最も起こりやすい現象を予測。

宇宙航空研究開発機構(JAXA) 人工衛星の技術を活用したアジア地域の洪水リスク管理
 地上雨量観測網が整備されていない発展途上国に対し、衛星画像を使って洪水予警報システムを提供。バングラデシュ、フィリピン、ベトナムで、実証実験。いであ(株)、NEC等もコンサルタントチームとして参加。

日本気象協会 洪水予測システム
予測対象とする河川の流量観測所あるいはダム地点で、48時間先まで毎時流量を予測。河川管理およびダム管理の支援資料に。

国土交通省 川の防災情報
 観測所名・河川名・水系名を入力すると、個別観測所の雨量・水位などを見ることが可能。大きな川では1~3時間後の予測水位が発表されるが、小さな川の場合、利用者が上流の川の水位や雨量を元に自分で判断する必要がある。

地球環境情報統融合プログラム DIAS
 地球環境や社会経済データを収集・統合・解析し、地球環境課題の解決に貢献する情報基盤。メンバーは大学や研究機関で構成され、衛星観測、気象観測、自然災害などの各種データセットを公開。また、これらのデータを活用した、リアルタイム降雨情報、河川テレメータデータアーカイブなどのデータ・アプリケーションも公開。
 
NEC 洪水予測システム
 タイ北部で実証実験。雨量や地形、河川に関する各種データを基にシミュレーションを行い、洪水による浸水区域や最大浸水高などを最大7日先まで予測。実際に発生した洪水状況とほぼ一致した結果を得ることができた。

富士通 人工知能を活用したSNSからの災害推定
 過去の複数の災害で投稿された「土砂崩れ」「浸水」などの文言を含む数十万件のつぶやきを分析。実際に体験した「目撃・観察」や、他人から聞いた「伝聞」、新聞やテレビ、行政情報などの「報道・アナウンス」などに分類。伝聞やデマなどを排除するシステムを作り出した。

八千代エンジニアリング ニューラルネットワークによる洪水予測技術
15年前からニューラルネットワークモデルによる洪水予測技術を開発。河川特性の異なる多くの河川で洪水予測精度の検証を行い、一定の予測精度が得られることを確認。土木学会河川技術に関するシンポジウムでも発表。

東京建設コンサルタント 災害予測システム
リアルタイムの観測データを基にした河川の水位予測や氾濫予測、ダムの流入量予測などについて、河川・流域の特性を反映したモデルを構築し、予測システムを設計。観測データや予測情報を用いた災害発生危険箇所等の早期警戒システムを提案・開発。


現在は、国と都道府県が指定した河川でしか洪水予報は行われていません。台風10号で多くの死者を出した岩泉町の小本川は、避難勧告などの目安となる水位を定める対象とする「水位周知河川」に指定されていませんでした。今後は、技術のチカラでどの河川も洪水予測の対象として監視できるようになってもらいたいものです。