人工知能伝習所

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人工知能が上司や部下になる日(1)~Google、LinkedIn幹部や名門ビジネススクール教授陣が大胆予想~

MITスローン経営大学院といえば、1960年代の米国アポロ計画に端を発する技術経営(MOT)コースの元祖として有名です。先日、その機関誌「MIT Sloan Mnagement Review」の秋号が発行されました。特集「Exploring the Digital Future of Management(マネジメントのデジタルな未来を探る)」と題し、人間が人工知能やロボットと働く世界でのマネジメントの未来について、学術・産業界から選りすぐりの識者の意見を集めたエッセイ集になっています。

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エッセイの筆者は、O'Reilly社CEOのTim O'Reilly氏をはじめ、GoogleのチーフエコノミストHal Varian氏、LinkedIn創業者のReid Hoffman氏、米IBM会長兼CEOのGinni Rometty氏、カーネギーメロン大学コンピュータサイエンス学部長Andrew Moore氏、「ワーク・シフト」で有名になったLynda Gratton氏など、そうそうたるメンバーです。

それぞれのエッセイは、編集長Paul Michelman氏の投げかける一つの問い「この先5年で、テクノロジはどのようにして、マネジメントの実践方法を見たこともないような形態に変化させるか?」に対する回答として書かれており、彼らの洞察は読み応えがあります。

以下、各エッセイについて、ざっくりとかいつまんで概要をご紹介しますが、無料で全文が読めますので、是非入手してじっくり読んでみることをお勧めします。

Rethinking the Manage's Role (マネージャの役割の再考)

 Lynda Gratton (ロンドン・ビジネス・スクール)

これまで、4つの予言を行ってきた。
 ①調整役としてのマネージャは、ロボットや機械学習に代替される
 ②情報共有や業績査定の技術の進展により、上司とチームは親子関係から大人同士の対等な関係になる
 ③テクノロジが組織の垂直型ヒエラルキーを崩壊させ、水平型のフラットな組織になる
 ④Uberのような、プラットフォームビジネスが興隆し、新ビジネスの開拓競争が始まる

このような流れは、必ずしも「マネジメントの終焉」を意味するものではない。
直近5年間を振り返っても、人々の働き方はそんなに急速に変わってきたわけではない。
マネージャが心配すべき「未来のリスクファクター」のトップ3は下記のとおり。
 ・バーチャルなチームをいかにマネジメントするか
 ・異なる技術になじんだ異なる世代をいかにマネジメントするか
 ・事業部間を流れる急速な知識のフローに対し、いかに追随するか
これらに対処するためには、高度なマネジメントスキルが必要。
そこを補完するテクノロジが必要になるるだろう。

Managing the Bots That Are Managing the Business (ビジネスをマネジメントするBotをマネジメントする)

 Tim O'Reilly(O'Reilly Media Inc.)

20世紀型企業では、企業が売っているのは、労働者が作り出した「物理的な製品」
21世紀型企業では、企業が売っているのは、ニュースや検索結果などの「情報」。
「情報」の大半を作っているのは、「ソフトウェアのプログラム」すなわち「電子的労働者」。
プログラマが「人的労働者」で、目標指標(OKR)に従って「電子的労働者」をマネジメントしている。
一方、アルゴリズムのような「電子的労働者」が「人的労働者」のマネージャをすることもある。
UberやLyftでの配車(ドライバー)の管理がその例。

マネジメントの仕事の大半が、「ビジネスをマネジメントすること」から「ビジネスをマネジメントするBotをマネジメント」することへ、シフトしてきている。

かつては、「労働力を外からたくさん雇えるヤツ」が影響力を持った時代だった。
これからは、「労働力を自分で作り出せるヤツ」が影響力を持つ時代だ。
プログラマでも、自分でプログラムを書いて「電子的労働者」を自分の手足として働かせられるヤツが競争力を持つ。
 ・LinkedInの重要記事をスクレイピングするbotを書く営業マン
 ・オンラインアンケートやデータ収集アプリを構築するマーケター
 ・絵を描くだけでなく、アプリのプロトタイプも作れるデザイナー
など。

マネージャは、顧客のニーズを深く理解した製品・経験デザイナーにならなければならない。
そのためには、「build-measure-learn (構築-計測-学習)」プロセスを回していく必要がある。

A New Era of Corporate Conversation (企業内会話の新時代)

 Catherine J. Turco (MITスローン・スクール・オブ・マネジメント)

企業内で使えるソーシャルメディアが急増している。
Wikiマイクロブログ、マルチチャンネルプラットフォーム(Yammer、Slack、HipChat等)、従業員フィードバックツール(TinyPulse)など。
これらは、企業内でのオープンな対話を促進するツールとして、今後重要になってくる。
企業が取り組む課題はますます複雑化している。
複雑に入り組んだ課題を理解し、対応策を立てるためには、多様性を活かしたオープンな対話が必要不可欠。
情報をオープンにし、意見の風通しを良くするためのマネジメントが必要になる。

Executive Assistants For Everyone (みんなの秘書)

 Hal R. Varian (Google Inc.)

今までは、企業の幹部だけが人間の秘書を使っていた。
これからは、誰もが電子秘書を使う時代になる。
電子秘書を使うことで、アポとり、会議のセットアップ、出張計画、文書の共同執筆、データベースやダッシュボードへのアクセスがずっと簡単になる。
コミュニケーション手段の進化によって、最初からグローバルで多国籍企業のような形態をとるスタートアップが増えた。
コミュニケーションの形態はさらに変わる。人間対人間から、人間対エージェント、そして、エージェント対エージェントへ。
利用場面も、仕事に限定されない。個人の生活でも、エージェント同士で会う場所・時間を決められるようになるだろう。

Is Your Company Ready to Operate as a Market? (会社を「マーケット」として経営する準備はできているか?)

 Rita Gunther McGrath (コロンビア・ビジネス・スクール)

これまで、企業内に閉じていた資産や処理が、オープンな「マーケット」に移動しつつある。
例えば、UberAirbnbでは、車やホテルなどは自社の資産として持っていない。
ブロックチェーンも、中央集権型の決済の仕組みが、外部に分散した仕組みに移行する動きの一つ。
企業は、「ヒエラルキー」の世界から、「マーケット」の世界へシフトしている。

新しい世界で必要とされるスキルは、下記の通り。
 ・複雑な合意をとるための交渉スキル
 ・想定外の事態をすばやく察知するスキル
 ・組織的な学びを促進するスキル
 ・一時的に寄せ集められたチームで素早く信頼関係を築くスキル

新しい企業経営の形態
 ・変化を素早くとらえ、常に方向をアジャストしていく。
 ・精緻で遅い判断よりも、ざっくり正しい判断を素早く下す
 ・より発見駆動型、選択肢指向な経営ツールが必要

Ethics and the Algorithm (倫理とアルゴリズム)

 Bidhan L. Parmar, R. Edward Freeman (バージニア大学ダーデン・スクール・オブ・ビジネス)

我々のの行動から出てくるデータを利用して、アルゴリズムはサービスの振る舞いを変える。
デートサイトでのパートナーの選択、ニュースサイトでの記事の選択などに我々のデータが使われている。
これらのソースコードを書いているのは人間。そこには、コードを書いた人間の倫理観がバイアスとして存在する。
自動運転車のコードの倫理観も大きなトピック。事故を回避できない時、誰を犠牲にするべきか?
我々の倫理がどのようにアルゴリズムに影響を与え、
アルゴリズムが我々の倫理にどのように影響を与えるのかを理解するのは、我々の時代の大きな課題。

Predicting a Future Where the Future Is Routinely Predicted (常時未来が予測される世界で未来を予測する)

 Andrew W. Moore (カーネギーメロン大学)

人工知能が様々な状態をリアルタイムで把握し、予兆を検知したり、診断を行ったりできるようになる。
 ・工場での機械の故障の予兆検知
 ・伝染病流行やバイオテロの予兆検知
 ・航空機の不具合の予兆検知
 ・顔の表情から心理状態を推定し、メンタルヘルスを診断
 ・学校での教育現場の運営状況の把握(誰が発言した/していない等)
 ・ミーティング中の従業員の参加度合いや、潜在顧客の興味の度合いの把握