人工知能とは何か?(2)浮かび上がる3つのトピック。人工知能との対話、汎用人工知能、人工知能ベースの開発手法
9/17の記事にひき続き、人工知能学会&情報処理学会の学会誌の特集をウォッチします。第2部は、11名の研究者による、人工知能の各分野の技術動向です。それぞれ2ページという短い紙面での研究動向紹介なので、あくまでキーワードのさわりのみですが、その分、人工知能という広大な研究分野でのホットトピックを駆け足で把握するには適度な分量になっています。
収録されている11のトピックを独断と偏見で分類すると、大きく3つの領域が浮かび上がってきました。
(A)対話/インタラクション系の研究
- 1. 対話型ロボットの研究
- 7. 人のための人工知能
- 8. 対話システム研究の動向
(B)汎用人工知能/超人工知能とその課題
- 2. 汎用人工知能の現状と展望
- 3. 機械の中の道徳
- 4. 深層学習から汎用人工知能の進化に向けて
- 6. ウェアラブルからシンギュラリティへ
- 11. Deep Evolution
(C)開発フレームワークとしての人工知能
- 5. コグニティブ・コンピューティング
- 9. プログラミングパラダイムとしての深層学習
- 10. 脳計測によるユーザ認知状態のモデル化
(A)対話/インタラクション系の研究は、対話型ロボットやチャットボット、人と協働して問題解決を行う人工知能について議論されているエッセイです。AmazonのEchoや、ソフトバンクのPepperなど、既に製品化されたものが事例として取り上げられており、比較的短期スパンでの動向になっています。
(B)汎用人工知能/超人工知能とその課題は、汎用人工知能や超人工知能の実現に向けてのアプローチや、その際の課題について、少し長期スパンでの研究の潮流が議論されているエッセイです。本特集の第3部のテーマにもなっていますね。
(C)開発フレームワークとしての人工知能は、IBMのWatsonや学習済みモデルの再利用などの動きや、脳計測と人工知能を使ったユーザビリティ開発のように、人工知能をシステム開発の部品として利用するエッセイです。将来的に人工知能がソフトウェア開発のパラダイムを変えていく可能性が示唆されていて、興味深いです。
以下、各エッセイのポイントを簡単にまとめておきます。個人的には、下記の3つのエッセイがおススメです。
- 6. ウェアラブルからシンギュラリティへ
- 7. 人のための人工知能
- 8. 対話システム研究の動向
1. 対話型ロボットの研究
石黒 浩(大阪大学/ATR)
・米国発の対話型ロボットは、マイクやスピーカの機能拡張
- Echo、Jibo
・日本発の対話型ロボットは、人間型が多い
- Pepper、RoBoHoN、Sota、CommU
・対話型ロボットの研究で遅れているのは「対話研究」
- 感情、理解、発話、ストーリーなど。
2. 汎用人工知能の現状と展望
市瀬 龍太郎(国立情報学研究所)
・汎用人工知能=特定の領域で知性を見せる人工知能ではなく、異なる領域において多様で複雑な問題を自律して解く人工知能。例:さまざまな種類のゲームプレイを学習するDeep Q-Network(DQN)
・汎用人工知能を目指す3つの研究アプローチ
- 認知アーキテクチャからのアプローチ
+ ACT-R
+ 生物にインスパイアされた認知アーキテクチャ(BICA)
+ 全能アーキテクチャ
- 人間の身体性からのアプローチ
+ 認知(発達)ロボティクス
- 機械学習からのアプローチ
+ 深層学習(ディープラーニング)
・ノーベル賞級の研究が汎用人工知能で実現可能になる中央値は2045年
3. 機械の中の道徳
久木田 水生(名古屋大学)
・道徳的に判断し行為する人工エージェント=「機械倫理」「人工道徳」
- 介護士が直面する倫理的なジレンマに対する規則を導出する研究
・2016年から「Moral mod Science」という研究プロジェクトを立ち上げた
- 自然科学で得られた道徳概念を反映した人工的なシステムを作る
4. 深層学習から汎用人工知能の進化に向けて
栗原 聡(電気通信大学)
・今後の人工知能の進化の方向性は2つ
- 膨大な論文や文献を理解し、新たな科学的発展に寄与するスーパー人工知能
- 日常生活に浸透し人に寄り添う人工知能
・人にあって深層学習系人工知能に不足しているのは以下の2つ
- マルチモーダル性:少ないデータで高い学習効果を発揮する
- 目的指向:目的に応じて相手を気遣う応答をする
5. コグニティブ・コンピューティング
武田 浩一(日本アイ・ビー・エム)
・Watsonのようなコグニティブ・システムの3つの特徴
- 大規模なデータからの学習
- 目的を持った推論
- 人との自然なインタラクション
・Watsonを構成する主要なコンポーネント
- 自然言語処理(質問や情報源の分析)
- 情報検索(解答候補や根拠を探す)
- 機械学習(解答候補をスコア付け)
・Watsonはオープン・イノベーションを目指す
- 米国8大学と共同研究
- 日本では奈良先端科学技術大学印大学と共同研究
- Watson Developer CloudのAPIをデベロッパー向けに提供(例:CogniToys)
6. ウェアラブルからシンギュラリティへ
塚本 昌彦(神戸大学)
・シンギュラリティに対する異論
- カーツワイルの「ポスト・ヒューマン誕生」の
副題「コンピュータが人類の知性を超えるとき」は、実は誤訳だった!
- 原題を直訳すると
「人類が生物学を超越するとき」であり、人間自体が変化するシナリオ
・シンギュラリティの定義はいろいろあるが・・・
「科学技術・文明の発展曲線が特異点となるとき」であるべき
・超知能(Superintelligence)を実現する2つの方法
- 機械を発展させる方法(機械拡張)
- 人間の知能を機械で増強する方法(人間拡張)
・人間にとって悲劇的な結果を回避できるのは、「人間拡張」のみ
- 目標はサイボーグの世界。最初のステップがウェアラブルコンピューティング
- ゆくゆくはマイクロロボットの体内注入を推進する
7. 人のための人工知能
辻野 広司(ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン)
・人工知能は人を置き換えるものではない
- 人のために新しい協調関係や社会を創るもの
・社会的知性を持つ人工知能
- 人ととの相互関係や人同士の関係を理解し、より調和のとれた行動を導く
・社会的知性を持つ人工知能のインタラクションの目的
- 人に問題解決の過程を楽しんでもらうこと
- 状況の理解、人の知識の学習、インタラクションのイニシアチブやタイミングの制御が研究テーマになる
8. 対話システム研究の動向
東中 竜一郎(NTTメディアインテリジェンス研究所)
・対話システムの分類
- タスク指向型:対話によって所定のタスクを遂行する
- 非タスク指向型:おしゃべり(雑談)を行う
・雑談対話システムの3つの実現方法
- ルールベース:手作業で対話ルールを書く(例:ELIZA)
- 抽出ベース:Twitterのやりとり等の大量データから対話ルールを抽出する
- 生成ベース:深層学習で大量データから生成モデルを導出(今、ホットな領域)
・生成ベースの例
- Neural Conversational Model
- Memory Networks
・共通のデータセット、共通の評価尺度を使った共有タスクで技術が進展
- Dialogue State Tracking Challenge
- 対話破綻検出チャレンジ
- Short Text Conversation
9. プログラミングパラダイムとしての深層学習
丸山 宏(Preferred Networks)
・演繹的システム開発と、機能的システム開発
- 演繹的:f(x)の計算方法の記述=伝統的なシステム開発
- 帰納的:訓練データを与えて開発=機械学習に基づくシステム開発
・帰納的システム開発の主要テーマ=学習済みモデルの再利用
- ホワイトボックス再利用:モデルの詳細が開示される
- ブラックボックス再利用:モデルの詳細は不明
・人工知能学会全国大会においてワークショップ開催
- 深層学習でどのように儲けるか
- ニコニコ深層学習β
10. 脳計測によるユーザ認知状態のモデル化
森川 幸治(パナソニック)
・脳計測で分かる認知状態:エラー関連電位
- 人間が「期待通り/期待はずれ」と認識した場合を測定可能
- スマホを操作する人間の期待通りに動いているかどうか分かる
- 強化学習と組み合わせれば、ユーザごとの「期待」を学習できる
11. Deep Evolution
池上 高志(東京大学)
・人工知能と人工生命の違い
- デザインされたものか、自己組織化するものか
- 人工生命には「モチベーション」がある
- 人工生命は「ただそこにいるだけ」
・生命を模倣しなくても、生命的なるものが作られている
- Googleのシステム:24時間x365日ダウンさせないために、
巨大で複雑だがロバストなシステムを実現
⇒結果として生命システムを作っているのではないか
- Webも生命的
+「Twitterは十億のパルスをやりとりする地球の神経システムだ」
by Erick Schonfeld
+ Googleの主要なアーキテクチャは脳のモジュールとも対応づけられる
・ALIFEの未解決問題
- 多段式の進化(Deep Evolution)が生まれない
- ALIFEは次の第4次人工知能ブームを見据えている