読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

人工知能伝習所

〜 AI x Big Data x IoTなトピックを、非エンジニアにも分かりやすくお届け 〜

"人類の宿敵" がんと戦う人工知能たち

活用事例:医療

国立がん研究センターが9/26に発表した集計結果によると、すい臓がんの4割が、受診時に既に「末期」まで進んでいるそうです。最近では小林麻央さんの乳がん告知が大きな話題になりましたね。

人工知能(AI)関連のトピックでも、がんを対象としたニュースが相次いでいます。ここ半年くらいのニュース記事から、ピックアップしてまとめてみました。以前は、「機械学習を使って画像診断の精度を高める」ような話が中心だったのですが、ここ1~2ヶ月で、人工知能を使って膨大な文献をマシンに読み込ませ、それを基にマイナーな病気を診断したり、治療計画を立てたりといった新しい活用方法が目立ってきています。

CP695J

画像処理系アプローチ

がんに対抗するための人工知能技術の活用例として、一番オーソドックスなのが、画像診断に機械学習を適用するというアプローチでしょう。CTスキャンMRIなど、画像を使った検査方法が普及するにつれ、人間の医師が診断しなければならない画像の量も増えてきているため、診断を効率化したりケアレスミスや医師の経験による格差を軽減したりすることが期待されます。

コロンビア大学発の人工知能プロジェクトBehold.aiは、増え続ける画像の読影を効率化し、ケアレスミスをなくすことを狙いとしています。診断精度は公表されていませんが、TechCrunchの記事によると85%程度とのことです。

人間と比較しても、同等かそれ以上の精度を達成できるケースが出てきています。ハーバード大学での研究では、乳がんの早期診断で人間の正解率96%に対して、人工知能は92%、人間と人工知能が協調することで99.5%の精度が出せるという報告がされています。

また、ヒューストン・メソジスト病院での乳がんの診断では、人工知能を使ってマンモグラフィの結果を人間の30倍も速く99%の正確さで解釈できた、と主張しています。

さらに、ケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究では、「画像診断で人工知能が人間に勝った」と、センセーショナルな記事になっています。MRI画像上の脳細胞の異常が、放射線壊死か脳腫瘍かを判定したところ、人間の医師では、患者15人中7~8人を正しく診断できたのに対し、人工知能は12人を正しく診断できました。

企業で製品化されている例としては、富士フイルムのがんの画像診断支援システムや、東大発スタートアップLPixel Inc.AIによる画像診断支援システムなどがあります。

異業種からの参入として、興味深い動きもあります。NASAのジェット推進研究所(JPL)と米国立衛生研究所のがん研究部門がパートナーシップを結び、宇宙開発で培われた画像解析技術をがんの早期発見へ適用しようとしています。

また、Googleの発表では、画像診断の応用として、がん細胞と健康な組織を区別して、放射線をどのように当てるかという治療計画を作成しようとしています。具体的には、DeepMindを使って、口腔がんや鼻腔がんなどを含む頭頸部がんの放射線治療について、過去の700件の症例を分析し、治療計画の作成を短縮しています。

画像診断のための撮影技術も進化しています。UCLAの研究では、特殊なレーザーを使った独自の顕微鏡を使って1秒間に3600万枚もの血液細胞を撮影。ディープラーニングを使ってがん細胞を特定する技術を開発しています。


テキスト解析系アプローチ

人間が読みきれない膨大な医療文書を活用したり、自由記述で記載された問診結果をベースにがんを診断したり、治療計画を立てたりする研究も目覚しい成果をあげつつあります。

IBMのワトソンが白血病患者の正しい病名を当てて、人命を救ったニュースは記憶に新しいことでしょう。東大医科学研究所との共同研究では、患者から採取したがん組織の塩基配列を入力すると、がん発症や進行に関係している可能性のある遺伝子変異の候補を見つけ、根拠となるデータや抗がん剤候補と一緒に提示するシステムを開発しています。検索対象は過去に発表された2千万本以上の医学論文や薬の特許情報で、8割近くの症例で診断や治療に役立つ情報を提示できています。また、韓国のカチョン大学でも「Watson for Oncology」が採用されています。

Microsoftでも、検索ワードのログからすい臓がんを早期発見する研究が行われています。また、9/21には、「人工知能を使ったがん治療への取り組み」が大々的にアピールされました。この取り組みは、下記のような、いくつかのプロジェクトに分かれています。
機械学習自然言語処理を活用し、現在利用可能な研究データを検索して、それぞれのがん患者に合わせた治療プランの策定を行うプロジェクト
放射線治療にコンピュータービジョンを活用し、時間の経過とともに変化する腫瘍の様子を捉えるプロジェクト
・生物もコードでプログラミングし、人の免疫システムが対応できていない部分に関して、人の細胞がその問題を修復できるように再プログラムを施すプロジェクト

インディアナ大学での研究では、自由記述で書かれた7000件の病理レポートに対して、人工知能に「がんか否か」を診断させた結果、人間と同等の精度で診断できたと報告されています。

また、自治医科大学の「ホワイトジャック・プロジェクト」では、問診票や診察内容から、病名や確定診断に必要な検査法、薬の候補を助言するシステムの開発が進められています。

テキスト解析を、創薬に活用する動きも始まっています。厚生労働省は、新薬創出で人工知能を活用しようとしています。このプロジェクトでは、AIに実臨床情報や創薬に関連する膨大な数の論文、各種データベースなどの情報を学習させ、創薬に結びつきそうな化合物を提案させ、それを専門の研究者が検証する予定です。

ビッグデータ系アプローチ

がん患者の細胞に関する実験データや、たんぱく質の反応、患者の診断履歴などのデータを使って、がんのメカニズムを解明したり、特定の人物のがんリスクや患者の予後を予測したりする技術もあります。

つい先日(9/22)、Facebookマーク・ザッカーバーグ夫妻が疾病研究に30億ドルの投資を表明しました。この発表の中で、人工知能を活用した脳機能の理解、機械学習を活用したがん遺伝子の分析、伝染病を検知可能なチップ、病気の早期発見のための血液モニタリングなどへの投資が呼びかけられています。

がん患者の細胞に関する大量の実験データから、がんを抑える薬を開発しようとしているのが米Berg社です。彼らの Interrogative Biology Platformは、患者のがん細胞と健康な細胞をサンプルにして数兆件のデータを収集し、ディープラーニングで解析させます。現在、最初の製品を治験中で、腫瘍を25%にまで縮小できた例もあるとのことです。

日本のベンチャーも負けてはいません。今年設立されたばかりのInfinite Curation社が目指すがん医療の変革では、人工知能スパコンを活用して日本人のがん遺伝子を大規模に解析。がんの診断・治療・創薬のプロセスを統合的に変革しようとしています。同社CEO・齊藤氏の予測する、「人工知能やスパコンの進化が医療にもたらす未来」の9段階も要チェックです。

また、島津製作所では「分子診断」を強化した、がん早期診断機器を事業化しています。これは、患者から採取した血液などを分析し、腫瘍が大きくなる前に発見する技術で、分析機器と情報通信や人工知能とも連動させるとのこと。

がんの早期診断や治療とはちょっと毛色が変わりますが、第一生命と日立の共同研究も興味深いです。第一生命が持つ保険データと、日立が持つデータ解析技術を使って、約1000万人の医療ビッグデータを解析し、一人ひとりの健診結果と健診受診後の入院・手術などとの関係を分析。将来の疾病罹患、重症度や続発症、併発症などの予後の状況も予測するといったものです。


以上、駆け足ですが、ここ半年ほどの医療系人工知能、特に「がん」をターゲットにした技術についてご紹介しました。この1ヶ月間だけでも、GoogleIBMMicrosoftFacebookといった巨大企業が次々と関連ニュースをリリースしており、IT&Web系企業の新たな戦場の様相を呈してきている感があります。果たして勝者はどこになるでしょうか。そして、「がんという病」はどうなっていくのでしょうか。いずれにしても、最後に笑うのは「人類」であって欲しいものです。